メキシコ/キューバにて


            空港はあの日の匂夏に入る



            声もなくシーツを濡らす熱帯夜



            びんろう樹腿の付け根に傷のある



            君の胎内に注ぐ祈りや夏の宵



            Cinco から Quatro までの遠きこと



            石油なき暗夜の色の深さかな



            夜通しの祝歌のみやこラム旨し



            群集が駱駝てふ名のバスを待つ



            どこまでも尾いてくる犬や南風



            物乞ひの老婆に蝿のたかりをり



            メーデーの procession のながながし



            汗拭 Aqua Potable 水溜



            名も知らぬ豆殻踏めば豆の音



            トロピカーナの華やいでゐて君ばかり見る



            椰子の実の寄り合ったまま切られたる



            鋭角に橋と影との谷を裁つ



            昼下がり果てたる後の水平線



            バラデロの硝子の波に沈みけり



            白南風や唐竹割りのロブスター



            カテドラル少し傾いてゐる五月


                           ('96/6/30 優璃)

英訳(部分)はこちら*



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