タイムトンネル掘り(The Time Tunnel Digger)


 まったく、気まぐれで頭のMRI(Magnetic Resonance Imaging=核磁気共鳴画
像)なんて撮るもんじゃないよな。かといって見つかっちまったものは仕方がない
んだが。いやね、新しいマシンの調子を見るためにちょいと被検者になってみたん
だ。今日びボランティアなんてつかまんないし、アルバイト頼むと高いしでさ。そ
うしたら、たまたま脳動脈瘤が見つかっちまった。それも、いかにも破裂しそうな
危ない顔したやつ。おれも普段はよぼよぼのじいさんばあさん取っつかまえてさ、
蹴飛ばしたって絶対破裂しそうもないよな動脈瘤の治療をいいかげんにやっつけて
金取ってんだけど、今度という今度はちっとばかし困ってんだ。職業がら脳外科医
なんかの同業者には任せられないのよ。いいチャンスだてんで若い見習いにいじく
られて廃人になるのがオチだもんね。おれ、ちょっとばかし俳句をかじってんだけ
どさあ、俳人にはなってもいいけど廃人は嫌ですよ。ひょっとすると、こっそりロ
ボトミーかなんかされて、いつのまにか只働き、なあんて目に遭うかも。くわばら
くわばら。
 おれはさあ、昔なら開業医って呼ばれた仕事やってんだけどね。医者っても、な
にせ例のインジェクタブル=マシンが登場してからこっち、内科も外科もなくなっ
ちまったからさ、まあおれは横文字で言うならインターベンショニストさ。イベン
ト屋じゃないよ。オナニストでもない。INTERVENTIONIST、それも血管専門のね。早
く言やあ血管修理請負業だ。洒落のわかる患者にはタイムトンネル掘りだなんて自
己紹介することもある。「血管は未来へ続く生還トンネル」…どうだい、悪くない
標語だろ? 字余りだけどさ。おっと、今は患者じゃなくてクライアントって言わ
なきゃいかんのだったな。やりにくい時代だあね。まあ口の悪い連中には下水工事
人夫呼ばわりされることもあるけどね。せめて配管工事ぐらい言ってくれってんだ
よ。どん!……ててて、どうも最近肩が凝っていけねえや。それになぜか頚を右に
回すとめまいがしてきやがる。疲れてんだなあ。なんせ売れっ子だもんね。
 インジェクタブル=マシンてのは注射可能機械、略して注射機だ。機械の部品を
うんと小さくしてさ、コロイドつうのかな、浮遊液をこしらえて注射しちまうわけ。
血管内に注入された部品はある特定の場所で自分勝手に集まっていろんな機械をこ
しらえ上げる。それを外から操って血管を広げたり、潰瘍を治したり、穴を塞いだ
り色々やるわけだ。おれが操作するのは中でも一番精巧なやつでさ、潜水艦みたい
な格好してるんだぜ。「ミクロの決死圏」みたいだって?…古いなあ。まあ似たよ
うなもんだけどさ、あんな質量保存の法則を無視したデタラメな代物じゃあないの
よ。VR(Virtual Reality=人工現実)技術の粋を凝らしてあっからさ、抜群の臨
場感なの。さてと。
 20分間エンドレスのボイスレコーダーのスイッチを切り、リカに注射液の調整
を頼む。作業内容を記録するための装置だが、大昔のバスガイドが使ってたような
マイクが目の前にぶら下がってると、どうも観客相手にべらべらとしゃべくってる
ような調子になってしまう。狭いコクピットの圧迫感がそうさせるのかも知れない。
リカは我が看護婦兼秘書兼元愛人だ。元ってのがちと悲しいとこだが。大きな声じゃ
言えないけど、最近あっちの方がどうにも不調なのだ。すっかり御無沙汰しちゃっ
てる。
 え? 使うキット? 何でもいいよ、そうだなあ、脳血管用の標準キットにして
もらおうかな。わざわざ検査予約をキャンセルして何を始めるのかって、いや、ちょ
っと自分の身体の中を覗いてみようと思ってさ。そ、そんなヘンタイを見るような
目つきはやめてよ。これも市場調査の一環さ。クライアントが実際にどんなことを
体験しているのか、身をもって味わおうってわけ。おっ、用意できましたか。早い
ね……てててっ、もちっと優しく打ってくれよお。浸透圧が高いから痛いのは仕方
がないって、そりゃそうだけどねぇ。あ、バンソーコーおれが貼るわ。
 タイマーをセットし、作業服に着替えて乗船だ。別に着替える必要はないんだが、
こういうのは気分の問題だからな。どうだい? 特注なんだぜ、これ。サンダーバー
ドの隊員服そっくりに作らせたの。こっちがシミュレータなんだけど、外見はサン
ダーバード4号なんだよ。色もおれが塗ったんだ。いいんだよ、患者…クライアン
トには見えないとこなんだから。コクピットもそれっぽくしてくれって頼んだんだ
けどさ、資料がないからってNASAのスペースシャトルなんだな、ここは。よっこら
しょ、換気扇をつけてまず一服と……ぷはーうめえ。電子部品の塊だからタバコは
いけないんだけどね、本当は。火災報知機だのドロボーよけだのが一緒くたになっ
たセキュリティー端末もあるんだけどさ、タバコの火と煙でしょっちゅう誤作動す
るもんだから電源切っちゃった。
 さて注入された機械が我が血管内で組み上がるまでしばらく待ちますか。静脈か
ら注入された部品はそのまんまだとぜーんぶ肺に引っ掛かっちまうんでね、上腕静
脈腋窩静脈鎖骨下静脈無名静脈上大静脈を経て右心房に入るってえと、まず土台に
なる部品が右心房の壁にがきっと杭を打って自分を固定するんだ。どうやって右心
房に着いたことを判定するのかって、難しいことはよくわからんがペーハーだか酸
素分圧だか上下大静脈血の合流によって生じる乱流だかを検知するんじゃねえの、
たしかそんなことが能書に書いてあったよ。とにかくさ、土台になる部品は心房中
隔に食らいついて杭を打ち込むと強い磁場を発生して他の部品を呼び集める。集まっ
た部品は次々と順序よくくっついてって立体的な複雑な形になっていくんだと。蛋
白質の3次構造決定の原理だかなんだか、まあそんなわけだ。実はこの部品てのは
必要量以上にたくさん注入しておくもんで、余ったやつはやっぱり肺に飛んでって
毛細血管に引っ掛かっちゃうんだ。そのままだと具合が悪いから、部品の表面には
20分で融ける時限コーティングがしてある。これが融けると血中の蛋白分解酵素
やら脂質分解酵素やらが働いて、余った部品はきれいさっぱりなくなっちまうんだ。
一部は吸収されるから、そこにビタミンだの血小板凝集抑制剤だのを混ぜてあるら
しいよ。よけいなお世話っつう気もするけどさ。
 おっ、来た来た。スクリーンが明るくなって、いよいよおれの出番だ。ミュージッ
クスタート、「ワルキューレの騎行」ときた。静脈用の機械だったらここ右心房か
ら遡航していけば地続きでどこへでも行けるんだが、おれが今日操作するのは動脈
系の機械だからね、右心系から左心系への転移ってやつをやらかさにゃあならん。
どきどきするな。自分の心音がコクピット中に響いてるんだから当り前か。さあ目
の前に映ってるのは左右両心房の境、心房中隔だよ。これをそろそろと移動してい
くってえと、卵円孔の痕が見つかる。卵円孔ってのは胎生期に右心系と左心系を連
絡してた穴だ。これが残ってたらしめたものだし、開いてなかったら自分で開ける。
レーザーを照射してと……あいた! 今のは「開いた」と「あ痛」の両方だぜ、こ
んちきしょうめ。おお痛え、こんなに痛いもんだとは思わなかったよ。鎮痛剤を打っ
てないから余計だ。患者のおれは寝ててもいいけど、術者のおれが寝こんじまった
ら治療にならんからな。
 さあこっからが見ものだよ。さあてお立ち会い、レールなしの3次元ジェットコー
スター、千番に一番の兼ね合いでござい。土台から離れるぞ、1、2のさん!……
うひゃあ、毎度ながら目が回るぜ。秒速なんセンチだか知らないが、おれの体感速
度は時速300kmくらいあるんだ。新々幹線並だよ。大動脈弁のゲートを通り、左室で
180度ターンして上行大動脈へ。おっとここで急ブレーキだ。炭酸ガス=ジェッ
トをふかしてまた壁に接近、アンカーを打ち出してと……ててて、痛えなあ。
 さて解剖学をご存じない方のためにちびっと解説いたしましょう。本船はただい
ま上行大動脈の外側壁すなわち頭に向かって左側の壁に接地しております。ここか
ら大動脈は大きなアーチ、いわゆる大動脈弓を描きつつ反転し、下行大動脈に連な
ります。下行大動脈の先は腹部骨盤下肢と続くわけですが、今回の目的地は脳血管、
正確に言いますと左内頚動脈の枝でありますところの左中大脳動脈であります……
ところがさあ、MRIで見たらどうも左内頚動脈そのものが詰まってるみたいなん
だよな、おれ。やっぱタバコの吸いすぎかなあ。かーちゃんに逃げられてから一日
5箱ぐらい吸ってるもんなあ。酒も飲みすぎだし運動不足だしろくなもん食ってな
いし、いいとこないな。とにかく左が詰まっているとすれば、右から前交通動脈経
由で行くしかないのだ。さて大動脈の枝と申すものは手前から腕頭動脈、左総頚動
脈、左鎖骨下動脈とだいたいこの順になっておる。腕頭動脈とはその名のごとく腕
と頭に行く血管の元締めで、右の総頚動脈と鎖骨下動脈に分かれるのだ。キャタピ
ラの爪を立てて壁を登っていくと……あひゃひゃひゃ、こりゃこそばゆい。おお見
えてきた、あれなるは右総頚動脈……れれ? やけに細くねえか、おい。げげっ、
ここも狭いんでやんの。
 おっといけねえ、血管にはまり込んじまったか。おわっ、左手が利かれえろ、や
べえろれるが回りゃにゃいひ、気も遠くなっへひは……あああ危ない危ない。逆噴
射のレバーが右側にあって助かった。うわあすげえ頻脈だ、血圧も上がってるぞ。
いかん船殻がきしみだした。降圧剤降圧剤と……ちっ、余分なエネルギーを使った
もんだから出力が低下ちまった。言い忘れたけど、この船は体外から照射するマイ
クロ波でエネルギーを得てるのよ。ちょっと補給しとくか。うーん妙に身体が火照
るなあ。
 しっかしよく見るとひでえ狭窄だな。ありゃりゃ、壁が変色してるどころか、潰
瘍ができかけてらあ。こんど改めて広げる算段を講じないとまずいな。といって今
日は血管拡張キットも潰瘍修復キットも用意してないぞ。まったく何て不健康な患
者だ、って自分を責めてもなあ。
 左総頚動脈はパスして3本目の枝にジャンプ。ちょっと遠いけど、左鎖骨下動脈
から椎骨動脈経由で終点の脳底動脈まで行って、そっから後交通動脈に乗り換えて
内頚動脈系に行きますか。なんか地下鉄の乗り換えみたいだな。
 おやおや、ここも相当な狭さですよ。やんなっちゃうなあ。ちょっと後退して、
船を涙滴状に変形してから勢いをつけて、ほい! 一気に狭窄部を越えたぞ。

 その時、誰かが右肩をぽんと叩き、何気なく振り返ろうとすると強烈なめまいが
襲ってくる。(しまった)と思った時には既に遅………

 「先生、せんせえったら。」
 「あ? おれ、寝ちまったのかい?」
 「寝ちまったなんて暢気なもんじゃないですよ。白目むいて泡ふいてたんだから。
死んじゃったのかと思った」
 「そうか? いやあ、ほんとはちょっと死んだふりして見せただけなのさっ」
 「ふーん。まっ、どうでもいいんだけど。あのね、リカ今日はちょっと早びけし
たいんだけどなあ」
 「早びけったって、ええ、もうこんな時間かあ。いいよいいよ。後片付けしとく
から。デートでもどこでも行っといで」
 言ったあとでしまったと思ったが、リカは気づかなかったようだ。いや、気づか
ないふりをしただけなのかな。「じゃあね、バイバイ」だなんて、ああなんだか2
度と会えなくなるような気がしてきた。どこもかしこも血管が欠陥だらけだもんな。
おれのインポも案外背側陰茎動脈あたりの狭窄が原因かも知れんなあ。
 あーところでここはどこなんだ? 左鎖骨下動脈に入ったところで気を失ったは
ずだから、頭の中かなそれとも腕かな。なんだなんだこんな末梢の動脈まで狭窄し
てるぜ。おれ、糖尿病の気もあるのかな。まあ、これぐらいならこの船のレーザー
でも何とかなるだろう。操縦棹の照射ボタンを押したとたん、
 「あちちちち」
 左手首に火箸を突き立てられたような激しい痛みが走り、反射的に操縦竿から手
を放す。ううむ腕だったか。くそ、戻らなくちゃ。
 だいたい何だって右を向いただけで気絶しなくちゃならんのだ……そうか! 椎
骨動脈系の血流もぎりぎりなんだ。頚を回すと血管がよじれるか何かして、少ない
血流がさらに少なくなるんだ。こりゃ椎骨動脈経由も危険だな。無理に通ろうとし
て船が詰まったら今度は間違いなく死ぬぞ。業務上過失致死で逮捕…ってこたない
か。仕方ない、大動脈弓まで引き返そう。しかし動脈瘤の補修が終わったら、近い
うちに血管の大掃除をしなけりゃなあ。タバコもきっぱり止めよう。くわえタバコ
で右向いて死んでた、なんて言うと格好いいけど、治療器のローンも済んでないか
らな。ここで死んだら葬式代も出ねえや。さて腕頭動脈もだめ、左椎骨動脈もだめ
となると、残るは左総頚動脈から内頚動脈の正面突破しかないじゃないですか。げ
えー、まさか自分の体内でトンネル掘りする羽目に会うとはね。仕方ない、未来へ
続くタイムトンネルを掘りますか。
 来た来たここです。ここが左総頚動脈の入口。うーん流れが淀んでるなあ。流速
ゼロじゃないか。ただ行ったり来たりしてるだけでやんの。まいったな。血流がな
いとなると、とたんに粘性抵抗が問題になってくるんだよね。どろどろの糊の中を
泳ぐようなもんだ。アンカーを使って少しずつ前進するしかない。穴掘りの前に登
山かよお、ハードだな。
 レーザーメスで切り出した血栓を船首の超音波破砕装置で粉々にしながら少しず
つ進んでいくと……
 (開いた!)
 途端に左目がまったく見えなくなり、続いて右手に力が入らなくなる。
 「ほ、ほえわみゃうい(こ、これはまずい)」
 ちきしょう、血栓をつついて飛ばしちまったらしい。
 (リカ!・・・は帰ったあとだっけ)
 左手で座席の下から救急箱を取りだし、血栓溶解剤の自動注入式アンプルを探す。
やっと見つけたものの、利き腕でない左手で、麻痺してだらんと垂れ下がったまま
の右腕に注射するのは至難の技だ。思い余ってサンダーバードの隊員服ごしに大腿
静脈めがけて注射器を押し付ける。
 ……永遠とも思えた長い時間のあとで、ようやく右手のコントロールを取り戻す。
まだ小指がうまく動かないが、船の操縦に支障はない。よかった。柔らかい血栓だっ
たのが幸いしたようだ。下手をすると脳梗塞でよいよいになるとこだった。まだそ
の辺に溶けかけの血栓がごろごろしてるからな、慎重に操縦してと…あったあった
よ瘤子ちゃん。といってもここからはネックと呼ばれるその入口しか見えないが。
ネックは小さい。0.7mmってとこか。船首をネックに突っ込んで瘤の中を生理食塩水
で満たし、ライトの光量を上げる。直径約2mm。瘤の天井にはミッキーマウスの耳み
たいなでっぱりがふたつある。危ねえ危ねえ。破裂寸前だ。
 高周波で瘤内の血液を凝固させ(あちちちち)てから船首を引っこ抜き、船殻の
一部を流用して瘤のネックにパッチを当てる。この船首を引っ込めるタイミングて
のも難しいんだよ、実際。凝固した血液につかまって離れなくなっちまったっちゅ
う話が山ほどある。おれたちは船を一隻駄目にするだけで済むけど、かわいそうな
のは患…クライアントですよ。半分とろけた船が末梢に引っ掛かって失語症になっ
たりする。「ほーら治りましたよ」「あうううう」「瘤はもうぜったいに破裂しま
せんからねえ」「うああああ」「え? 治療費ですか。ちょっとアクシデントがあ
りましたからね、半額にまけときましょう」「うあうあうー」「へい、まいどあり!
」てな調子だね……ひとり漫才なんてやってる場合じゃないな。早く仕上げちまお
う。内皮とパッチを接合して、と、よし出来上り。
 さあて、仕上げにいつものやつをやっておこうか…動脈の壁にイニシャルを焼付
けようとして、はっと我に帰り苦笑する。自分の血管に自分の名前彫ってどうすん
だい? でもこのまま何もしないで帰るのもつまらないな。あ、そうだ、遺言でも
書いとこうかな。ここなら絶対に改竄される心配がないからな。うん、我ながらい
いアイデアだ。よーしごにょごにょごにょ、と。
 ああようやく終わった。おっと船が溶けだす制限時間ぎりぎりじゃないか。大動
脈に戻る前にちょっと一服…いかんいかん、タバコはやめると決めたんだ。決めた
んだ…けど、最後の一本吸っちまおうかな。まだ5、6本残ってるからなあ。最後
の一箱ということでひとつお目こぼしを。ぷはーうまい。いやーこれだからひと仕
事終えたあとのタバコってやめらんないんだよ。おおっとくらくらするな。気のせ
いか窓の外が暗くなったような…ああそうか、酸素分圧が下がってやがる。効果て
きめんだな。これがまたいいんだけどさ。

 …大動脈に戻るためのキャタピラ走行に切り替えようとした時、にわかに信じが
たいほどの胸痛が襲ってくる。冷たい鋼鉄のたがでぎゅーっと締め付けられるよう
な痛み。息ができない。(心筋梗塞? しまった冠動脈もぼろぼろだったのか!)
規則正しく聞こえていた心音がもつれて不揃いなギャロップになる。船外圧(おれ
の血圧そのものだ)が低下し警告灯が狂ったように点滅する。タバコを取り落とし、
両手で胸を押さえながら、じっと痛みが去るのを待つ。額にあぶらがにじみ、冷た
い汗が背中を流れ落ちる。
 (リカ! 戻って来てくれ! ちゃんとインポも治すから……)
 (警備会社への連絡回線は? ああこないだおれが自分で切断したばっかりだ)
 (血栓溶解剤は? さっき使い切っちまったじゃないか!)
 その時鋼鉄のたががほんのわずか緩む。今だ、あえぎながら船の向きを変えよう
と試みる。心拍出量が低下しているぶん抵抗が少ないのが不幸中の幸い。融けかかっ
た船を操作して、大動脈を遡航し冠動脈へ……

 だが、おれの頭から心臓までの道のりはあまりにも遠かった。    (了)

('95/10/27 発表:'98/6/9掲載)

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