「転生(metempsychosis)」

 
 いつにも増してひどい衝撃のあとで視野がくすんだ赤に染まり、そのうち
に明るくなった。今回は比較的まともな世界のようだ。空は青いし空気はな
んとか呼吸できる匂いだし、草は緑だ。おれをのぞき込む連中の顔もさほど
化け物じみてはいない。目はふたつしかないが耳も鼻も口もあって、口には
唇や舌はおろか、歯までついている。

 やがておれは自分で歩けるようになり、街へ出て扉を探し始めた。おれの
額にあるはずの3つめの目はふさがったままなので、おれは今自分が三千も
あるという世界の中のどれにいるのか見当がつかない。いたるところにある
はずの残りの世界への扉も見分けることができないから、ひとつずつ試して
みる他はないだろう。

 おれをこの階層世界に送り込んだマスターとの連絡は途絶えたままだ。マ
スターはおれの第3の目が長い時間の果てにふさがってしまうことを計算に
入れなかったのだろうか。はるかな昔にはマスターからの指示も、階層世界
内での自分の位置も、異世界への扉の地図も、すべてが第3の目に投影され
ていたのに。

 …愚痴をこぼしていても始まらない。今日も明日も、おれはひたすら扉を
探し続けるしかないのだ。いつかまたある日扉が偶然に開き、衝撃とともに
この世界から逃れ出るまで。      (了)
('98/1/6)
(英訳はこちら


taku@medical.email.ne.jp(Taku Nakajo)