塚を探しに行った家族(The Family that Looked for a Mound)

 
 ある女が塚を探しに行こうと家を出た。こどもらがその後を追い、夫がさらに
その後を追った。女は海辺の寒村で峠を越える道を尋ねた。
「崖っぷちの細い道だ。冬は誰にも通れん」
 女は村人の制止も聞かずに上ったが、崖崩れのため道は途中で消えていた。食い
入るように崖を見上げる女の脇で夫はのろのろと腰ひもをほどき、幼いこどもらに
つかまらせると、黙って崖をよじ登り始めた。ひもの端を握りしめて、最後に女が
崖に取り付いた。雪がちらつき、横風が強くなった。崖の上の道の続きに夫がよう
よう手をかけたとたん、無情にも崖の端がぼっこりと崩れ、夫は声も立てずに海へ
落ちていった。幼いこどもらも次々と波間に消えた。
 女だけはとっさにひもを放したので海へは落ちなかった。残り一間ほどをなんと
かしてよじ登ろうとするが、崖の土はつかむそばからぼろぼろと崩れてしまう。女
はなにごとかを唱えると凍った土の中へ深々と腕を突き入れた。

 村人たちが浜に打ち上げられた男とこどもらの死体を見つけて崖に急いだ時、女
はかちかちに凍ったまま崖に取り付いていて、どうしてもその腕を引っこ抜くこと
ができなかった。春になって女の体が腐れ落ちたところを拾い上げ、村人たちは崖
の上に塚を作って一家を弔った。女の腕が突き刺さっていたところからは一本の桜
の木が海へ向かって真横に生えたが、その桜は一度も花を咲かせたことがない。

                          (了)
('98/2/2)
(英訳はこちら


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