オルゴール(The Music Box)


 マミが生まれたのはあたたかな夕方だった。

 マミの5才の誕生日にパパは死んでしまった。

 パパが用意していた秘密の小部屋は開けられずじまい。たくさんのお人形や
ぬいぐるみたちは、それでも毎日夕方になると誕生日の歌を歌い続けた。でも  そのうちにみんなの声は少しずつずれていって、1年もするとすっかりばらば
らになってしまった。

 マミはやがて家を出て大学に行き、卒業したあとも家には戻らなかった。マ
ミが生まれた家に帰ってきたのは、夫と死に別れ、孫たちがすっかりおおきく
なってからのこと。マミは105才になるところだった。

 あたたかな夕方、マミは100年前に死んだ父親のことを思い出していた。
「パパ…」つぶやきを壁のマイクが拾い上げ、声紋識別装置に受け渡した。重
たい本棚がどんでん返しになって、秘密の小部屋の入り口が開いた。

 部屋の中ではたくさんのお人形やぬいぐるみたちが誕生日の歌を合唱してい
た。100年後の今日、彼らの歌は奇跡的にぴったりと調子が合っていたが、
涙を流しながら次第に意識をなくしていくマミの耳はとうに聞こえなくなって
いた。(了)

('98/6/9)

NOVELSPOETRYHAIKU


HOME

taku@medical.email.ne.jp(Taku Nakajo)