「検診曜日(The Checkup Day)」

 日曜の朝、味噌汁の匂いで目が覚めた。台所でエプロン姿の若い女が振り向き、にっこ
りと微笑む。どことなく別れた妻に似ている。
「仕度ができましたよ」
ああこれは夢なんだなと納得してもう一度ふとんにもぐりこもうと思ったが、あんまり
いい匂いなのでついふらふらと食卓に座ってしまった。女は何のためらいもなく向かい側
に腰掛け、エプロンのポケットから名刺を取り出した。
…統合型健康管理システム 検診ヒミコ タイプA−23…
「御社の健康管理部からの依頼でまいりましたの。さあ、どうぞ」
何のことかさっぱりわからなかったが、つい差し出された味噌汁の椀を受け取ってしま
う。おお、おれが一番好きなじゃがいもと玉ねぎの味噌汁、しかもフノリがトッピングし
てあるではないか。思わず一口すすって、あまりの懐かしさに涙が出そうになる。見れば
テーブルにならんでいるのは生卵に焼き海苔、エボダイの開きにナスときゅうりの糠漬け
とおれの好物ばかり。えい夢だろうが罠だろうがどっきりカメラだろうがかまうものか、
質問は食い終わったあとだ、なにしろ離婚してからというもの平日は朝食抜き休日は昼す
ぎに起きだしてカップラーメンというワンパターンだったもんなあ、しゃべる暇もあらば
こそ、一品残らず片づけて、女が手渡した麦茶をぐびぐびと飲み下したとたん、強烈な吐
き気と便意が手を取りあって訪れた。
半分融けかけたフノリに至るまで、今食べたものを全部吐き出してから急いで便器に腰
掛けると信じられないほど大量の便が怒涛の勢いでほとばしり、胃から直腸まですっかり
空っぽになった。意外にもすっきりした気分だ。
「いったいあんたは何者でどういうつもりなんだ。だいたいドアには鍵が掛かっていたは
ずだ、それを…ごくり」最後のは生唾を飲んだ音である。すっぱだかになった女が万年床
に横たわり、大胆なポーズでおいでおいでをしているのだ。文句を言うのも忘れてふらふ
らと吸い寄せられてしまう。形のいい乳首を口に含んで、あまりの懐かしさに本当に泣い
てしまった。やや大きめのおっぱい、縦長のおへそ、あくまで白いもち肌、薄めの陰毛か
らサーモンピンクの×××と何もかもがおれの好み。ええい幻だろうが妄想だろうがツツ
モタセだろうがかまうものか、なにしろ離婚してからというもの…
「!!!!」くわえられたペニスに鋭い痛みを感じておれはのけぞった。女の口から細い
ストローのようなものが飛び出しておれの尿道に差し込まれている。黄色い液体がつつつ、
と上がって女の口の中に消えた。なななんてことをするんだおれにはそんな趣味はないぞ、
叫ぼうとするが声が出ない。女の舌がヘビのように伸びておれの喉を通過し、胃のあたり
が内側から強い光に照らされてぱあっと光った。肛門にゼリーのようなものが塗られたか
と思うと女の指が差し込まれ、そのままどんどん伸びて大腸をまさぐる。女の左手は怪音
を発しながらおれの全身を撫で回し、首にくらいついた牙から血をすすられるけはいがし
ている。女の両目が緑色のレーザー光線を発しながらおれの顔に近づき、網膜が真っ白に
なって何も見えなくなる。女の太股がおれの頭を首を胸を腹を挟みながらぐるぐると回る。
なにがなんだかわからないまま苦痛がいつしか快感に変わっていく。前立腺マッサージを
受けながら脳天から仙髄までを強烈なエクスタシーに貫かれ、おれはあえなく昇天してそ
のまま気を失った。

 数日後に健康保険組合から膨大な量の検診データをつづった書類と契約申込書が送られ
てきた。血液(高脂血症ぎみ)、尿(たんぱく陰性、細胞診クラスI)、糞便(潜血マイナ
ス、寄生虫卵なし)検査、胃と腸の内視鏡検査(慢性胃炎、上行結腸のポリープ切除済み)、
腹部超音波検査(脂肪肝、胆石あり)、眼底検査(軽い動脈硬化)、頭部MRIと胸部CT(左
基底核の小梗塞、右肺上葉の陳旧性結核病変)、精液検査(奇形率2%未満、運動性良好)
…
 付録のビデオディスクを端末にセットするとあの女の顔が現れ、しゃべりだした。
「こんにちは、統合型健康管理ヒューマノイドのヒミコです。我が社の検診システム、お
気にいっていただけたでしょうか。○○さんの検診結果はBプラス、いますぐ治療が必要
な問題はありませんが、今後も定期的な検査が必要です。我が社では今回お試しいただい
た基本セットの他にマッサージ付き、掃除洗濯付きなどさまざまなオプションをご用意し
ております。私の他にもホモセクシュアルな方のための「タケル」、バイセクシュアルな
方のための「ノブナガ」、ファミリータイプの「サザエ」などさまざまなタイプを取り揃
えてお待ちしております。お申し込みはインターネットまたはファックスでどうぞ。…○
○さん、今度は一緒にお風呂に入りましょうねえ」ウィンク。
 おれが直ちにすべてのオプション付きのウィークリーコースを申し込んだのは言うまで
もない。             (了)


NOVELS POETRY HAIKU

taku@medical.email.ne.jp(Taku Nakajo)