「線分上のアリア(An Aria on a Segment)」

命題1:すべてのテキストには特定の自然数が対応する

 テキストとはある規則に従って並べられた文字列である。すべての文字は特定のコード
 体系に基づいて対応する自然数に置換することができる。あるテキストに含まれるすべ
 ての文字を自然数に置換し、順に並べることによって得られる自然数はそのテキストと
 1対1に対応する。

 例文:古池や蛙飛び込む水の音
 区点コードによる変換: 2437 3551 0468 1931 4084 0450 2594 0464 3169 0446 1827

 補足:現存するすべてのテキストの長さは有限である。無限にテキストを吐き出し続け
    る永久機械を作成することはできない。みかけ上は無限に続く以下のごときテキ
    ストは実際には特定の文字列の繰り返しにすぎず、いわば循環小数とみなすこと
    ができる。

 例文:嵐の夜だった。盗賊たちが洞窟で雨風をしのいでいた。盗賊の頭領が手下に物語
    を命じ、手下は語りだした。「嵐の夜だった…」

命題2:すべてのテキストを数直線上の0と1の間に配置することができる

 命題1の変換によって得られた自然数Tの逆数1/TはTと1対1に対応する。1/T
 は0よりも大きく1以下である。

 例文:ん
 区点コード:0483
 従ってテキスト「ん」の位置は1/483=0.002070393374741

 補足:あるコード体系により数値1を与えられた文字のみからなるテキストが理論的に
    は存在しうる。当然このテキストのT値は1、その逆数も1である。

命題3:ある特定の個人を有限のテキストによって記述することができる
 個人の遺伝情報はDNAの塩基配列によって記述される。個人の出自は家系によって記
 述される。個人の行動・発言・思考内容は言語化することができる。あなたはいつ・どこ
 で・なにをしてきたのか? 世界が有限であり個人に与えられた時間もまた有限である以
 上、すべては有限のテキストによって語られてしまう。

命題4:従ってすべての個人もまた有限の線分上に配置される
 私とは私を記述したテキストにすぎない。そのテキストはまた線分上の一点にすぎない。

命題5:有限の線分上に無数の点がある
 私と私のとなりにいるあなたの間に有限の線分がある。しかしながら、どんなに短い線
 分にも無数の点が含まれている。私は何度でも生まれ変わってあなたのそばに近づこうと
 する。あなたもまた何度も生まれ変わって私のそばに近づこうとしてきた。私とあなたが
 織り成すテキストの間に無数のあなたと無数の私が並んでいる。合わせ鏡の中のわたした
 ち。耐え難い孤独。

命題6:そしてわれわれは決して0にも1にもなることができない


NOVELS POETRY HAIKU

taku@medical.email.ne.jp(Taku Nakajo)