「夜の訪問者」

 
 ぼくはここのところ毎晩あいつを訪ねている。あいつはいつもベッドの中で寝た
ふりをしてるけど、ぼくの気配は察しているんだ。だってぼくが間近に立ってあい
つの顔をのぞき込むと、決まってあいつは呼吸を乱して額に汗をにじませるんだも
の。一度なんか薄目をあけてぼくの方に顔を上げようとさえした。でも、あの時ぼ
くはなぜか急に気分が悪くなって気を失ってしまった。だけどもう二度とへまはし
ない。ぼくはあの時よりずっと力が強くなったし、今では闇の中の自分の掌だって
はっきり見えるようになったんだ。

 ぼくは長い間気ままに時空をうろついていた。見るものすべてが珍しくて、自分
が何者かなんて気にする暇もなかったんだ。そのうちにふと、自分がどこから来た
のか知りたくなった。開いている窓をひとつひとつのぞき込んでいくうちに、見覚
えのある窓に行き当たったんだ。そこにあいつがいた。ぽかんと口を開けていぎた
なく眠りこけていた。しばらく見つめているうちようやくあいつの正体がわかって、
ぼくは愕然としたね。涙が出るほど笑い転げて、それからあいつがとてもかわいそ
うになった。そりゃあ、ぼくには影がないさ。だけどぼくは空を飛べるし、行きた
いと思うだけでどこにでも行ける。あいつみたいに地上から1センチも浮き上がれ
ないやつとは違うんだ。あいつときたら昼間はつまらないことに頭を悩ませている
ばかりでぼくの方を見ようともしないし、夜は夜で大いびきをかきながら眠りこけ
ているくせに近頃どうも眠りが浅くて、なんてこぼす始末さ。ぼくはあいつに教え
てやりたいんだ。あいつだって目を醒ましさえすれば、ぼくみたいに空を飛んで時
間の中を自由に行き来したり、どんな遠い星にだって一瞬にして移動できるってこ
とをさ。

 だから今夜こそぼくは眠り続けるあいつをどやしつけ、まぶたをこじ開けてでも、
ぼくの姿を真っ正面から見せてやるんだ。世界と時間にとらわれた愚かなあいつ、
ぼく自身に。                             (了)
('97/12/10 会議室「ソリトン」に発表)


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