「創価文学」31号から

短詩抄

     
                森

    既に現前していた森に気づき、息を呑む。彼方に、月。


 
               孤独

    それはたとえば海を失った太陽。



              オフェリア

    ほの白く闇に浮かび 流れていく死んだ蝶。



               天使

    片腕をもがれた鳥は、残った腕の故に飛ぶことすらできない。




              南国

    黒い髪 汚れてきつい香りを放つ黒髪
    手を差し伸べてその花を抱け
    原色の風の中 おまえの体は輝いて散る



            幻想のスペイン

    山頂のガラス張りの寺院に
    叩きつけるように朝日が昇った

    その破片がきらめきながら飛び散り
    やがて山全体が燃えあがった



            アベニュー

    春の日の
    若葉を裏返す風の下
    老人は立ち止まって彼方を見やり
    少年は歩き続ける



             春の魚

    氷の部屋から魚は泳ぎ出した
    うすぐもりの春の陽射し
    木々は青灰色の霧に沈み
    透明に震える淡水魚の骨もさながら
    パステル色の空気へ出たなら
    春の魚は窒息するのだ



            恐山にて

    色とりどりの屍衣を纏った地蔵尊が
    曇天の下
    烏についばまれながら
    微笑している



             メス

    鋼鉄が一閃し
    もつれた微細な血管が
    一斉に円い口をあけた




taku@medical.email.ne.jp(Taku Nakajo)