その146
【カメ人間日記】
(2006年12月前半)
十二月一日(金)
『ハナシをノベル!』第四回である。
今回もおもしろかった。やっぱりこういう会は必要なものだと思う。
一席目は、田中啓文作『時たまご』。
本人も言ってた通り、ごく軽いネタなのだが、単純なギャグの繰り返しがいいテンポを作っていて、心地よく聞くことができた。軽さというのは、お客の緊張をとるのにじつに有効であることが、こうして実際に演じられるのを見るとよくわかる。活字で読んだだけ
ではこの噺の雰囲気はなかなかわからないだろう。そういう意味でも、とても落語らしい落語だと思う。
続いて、今回のメインである我孫子武丸作『貧乏花見殺人事件』。
前半が古典の『貧乏花見』の構造をそのまま使っていて、そこに目新しさはないのだが、その分、観客は安心して聴いていられる。舞台での笑いにおいては、実際にこの安心して聴けるというのはかなり大切な要素で、客席の緊張が勝ってしまうとなかなか笑いに繋がらない。客を混乱させ緊張させてから、それを一気にといて笑いに持っていく、とか、緊
張させたまま、というのもアリだが、個人的には、落語という形にそれはあまり向いていないように思う(もちろん、あえてそういうことをやってみるというのも新作のおもしろさではあるが)。
後半、殺人事件が起こってミステリになってからは、理屈が勝つからその分、笑いが少なくなってしまうのだが、謎の提示があってそれが最後に解決するというミステリの形式であることを観客はすぐに了解できるから、その興味できちんと最後までひっぱられる。
やっぱり形式とか型というのは強い(とくに、観客を前にした表現の場合)というのが、今回いちばん感じたこと。ほんと、毎回いろんなことを考えさせてくれる楽しい会である。
*打ち上げの場にあったもの。
十二月二日(土)
朝から歯医者に行って、あとはだらだら過ごす。
*お粥、味噌汁、人参の葉とピーマンとプ多肉の炒め物。
十二月三日(日)
娘の発する言葉についに文法らしきものが現れる。
これまでは、わんわん、にゃーにゃ、など単語だけだったのが、犬を見たときに「わんわんや」と言うようになったのである。
「わんわん」と言ったとき、「ああ、わんわんやな」などと返していたからだろうか。
それにともなって、まだその意味を認識していないはずなのに、偶然ちゃんとした文章らしきものが形成されたりもする。
私のことは「とお」と呼んでいるのだが、いきなり「とおは、わんわんや」などと叫んだりするのである。
「ええっ、お前にとって、とおは、わんわんか?」
「とおは、わんわんや」
「わんわんとちゃうやろ?」
「わんわんや」
「とおは、わんわんちゃうわ」
「とおは、わんわんや」
「ちゃうわ」
「わんわんや」
「ちゃう、っちゅうてんねん」
「わんわんや」
というような会話らしきものが、成立してしまったりする。
言葉というのは不思議なものだと思う。
まあそれはそれとして、大阪で生まれた女はやっぱり大阪弁をしゃべるんやなあ。
*穴子丼、味噌汁、水菜のサラダ。
十二月四日(月)
*バゲット、チーズ盛り、サラミ、味噌汁。
十二月五日(火)
一心寺シアターのワークショップに行く。今日はずっとエチュード。エチュードというのは、設定とかある言葉だけを与えられて、手探りのままで即興の芝居を続ける、という、まあ演劇の稽古方法のひとつみたいなものなのだが、たいしたことをやってないはずなのに、どっと疲れるし、あとで変なところが筋肉痛になったりする。まあそれだけ普段使ってないところを使うし緊張感も伴うわけで、稽古としてはいいのだが。
*穴子丼、味噌汁。
十二月六日(水)
*穴子丼、ロールキャベツ、大根と水菜のサラダ。
十二月七日(木)
メンテナンスのため接骨院へ行く。
*水炊き。
十二月八日(金)
夜、ひさしぶりに一時間ほど走る。
*玄米、豚肉と野菜の炒め物、ロールキャベツ、大根と水菜のサラダ。
十二月九日(土)
一歳十ヶ月の娘は、まだ格好だけではあるが、自分で歯を磨いたりするようになった。
使っている子供用歯ブラシに、トイストーリーのバズの絵が描いてあるので、バズの人形を渡して「ほら、いっしょやろ」と言うと、絵と人形を何度も何度も見比べたあげく、ふたつが同じものであることがわかったようである。次の瞬間、娘は人形を口に入れてご
しごしと動かした。
まあ理屈は通っているような気がする。
午後、劇団の稽古場でトランペットのレッスン。練習曲は、「チュニジアの夜」。
*五穀米、いそべ揚げ、ほうれん草のお浸し、味噌汁、大根と水菜のサラダ、マンゴー。
十二月十日(日)
*カレーライス、大根と水菜のサラダ、ほうれん草のお浸し、ヨーグルト、キウイ、マンゴー。
十二月十一日(月)
夜、五十分ほど走る。
*発芽玄米、豚汁、大根サラダ、里芋のともあえ、リンゴ、パパイヤ。
十二月十二日(火)
*スパゲティ・ジェノベーゼ、パン、大根サラダ、味噌汁、マンゴー。
十二月十三日(水)
サックス吹きの井上君の家に妻と子供と三人でおじゃまして、まあ忘年会というわけでもないが鍋をごちそうになる。
*豆乳鍋。
十二月十四日(木)
西宮へ『山下洋輔のジャズマン忠臣蔵』観に行く。楽器だけで忠臣蔵をやってしまおうというのは、たぶん飲んでいるときなどに、ああ、それならあれもできる、あの場面はこうもできる、ではこれはどうだ、などとわいわい喋って笑って、で、我々の場合だと、ああ昨夜はおもろかったなあ、あんまり憶えてないけどおもろかったなあ、で終わってしまうのだが、それを本当にやって、なおかつ、ここまでエンタテインメントとしての完成度の高い見世物にしてしまう力量にはただただ恐れ入るしかない。
音楽喜劇映画・忠臣蔵の生演奏版というか、虚構船団の文房具ではなく楽器が演じている忠臣蔵というか、とにかく、笑わせるところはきっちり笑わせ、聴かせるところはじっくり聴かせ、見せるところはしっかり見せ、もちろん大いに盛りあがり、エンドタイトルでのキャストの紹介まで、いや、けっこうなものでした。ロビーで見つけた田中啓文と西宮の駅前で飲む。
それにしても、西宮北口は、今はこんなことになっているのだなあ。私は十数年前、このあたりのごちゃごちゃした路地のなかの酒屋にビールやら酒やらをトラックで配達したりしていたのだが、もうそんな路地すら存在していないのである。
*居酒屋にあったもの。
十二月十五日(土)
*カワハギと野菜の鍋。
無断転載禁止 (c) Yusaku Kitano/Hiroko Morikawa(イラスト)
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