カメ天国通信


その165

【カメ人間日記】
(2007年9月後半)

九月十六日(日)
 朝から動物園に行って、やっぱり暑い日の動物園はあかんということを再認識して、それから、唐口さんのライブ。それにしてもいつもながら客席には、ミュージシャンとかプレイヤーばかり。今後の継続が危ぶまれるほどのがらがらである。大阪に文化がないということを再認識。こんなすごい演奏をやっておるのに、なんとかならんのか。
*ピラフ、ラタトウユ。

九月十七日(月)
*空芯菜と玉葱と塩豚の炒め物、五穀米、ラタトウユ、パプリカと万願寺のサラダ、冬瓜とかぼちゃと魚のスープ(冷)、パイナップル。

九月十八日(火)
*秋刀魚ご飯、万願寺と金時と茗荷のサラダ、冬瓜とかぼちゃの味噌汁。

九月十九日(水)
 妻が当てた『幸せのレシピ』の試写会に梅田へ。これが、託児サービスはあるわ、始まる前にハーブティとオレンジジュースが出て、終わった後で映画に出てきた料理が出てくると、いたれりつくせり。久しぶりにふたり並んでゆっくり映画を観ることができた。
 『幸せのレシピ』は、細部まで丁寧に作られた映画で、派手なシーンなどないのに映画を観ているという感覚を楽しむことができた。厨房や料理人たちの感じもとてもいい。
*トマトソースのスパゲティ、ホタテのサフランソース、シナモンパンケーキ、林檎。

九月二十日(木)
『雀三郎十八番』の二日目に行く。

桂雀五郎  宿屋町
桂雀三郎  くやみ
桂あやめ  私はおばさんにならない
桂雀三郎  胴乱の幸助

桂雀三郎  かぜうどん

 落語ファンとしての幸せを味わう。絶対に外れがないとわかっている落語会があるというのは、本当に幸せなことだ。
 このクオリティで六日間続くというのは、ちょっと信じられないようなすごいことなのだが、しかし桂雀三郎に関してはこれがあたりまえになってしまった。恐ろしいことである。
 打ち上げにもお邪魔して、ここにはとても書けない話題で大笑いして、夜中に自転車で帰宅。

九月二十一日(金)
 天満天神繁昌亭で、『ハナシをノベル!!』の出張版である『八天がホラーをノベル!!』が行われたのである。
 『ハナシをノベル!!』からは、私の書いた『寄席の怪談』と牧野修さんの『百物語』。そして、最後にトークショーというか、我孫子武丸さん、牧野修さん、田中哲弥さん、田中啓文さん、八天さんでぐだぐだと脈絡なくしゃべる。
 一周年とかで繁昌亭は大盛況で、今夜も結局入りきれなくて百人ほどお断りしたそうである。ああ、もったいないなあ。
 そんなわけで客席で観るどころではなく、楽屋のモニターで見ていただけなのだが、それでも『寄席の怪談』はよくこなれていることはわかった。もうすっかり八天さんの持ちネタになっている感じだった。降りてきてから、ああしたらよかったこうしたらよかった、と八天さんはしきりに反省していたが、それはもうその日の出来の良し悪しというレベルなので私があれこれ言うようなものでもない。これからも可愛がってやってください。
 トークは、まああんなもんでしょう。六人横並びで、そんなにいろんなことを喋れるはずがないことは初めからわかっていたし。ともかく、浴衣とはいえ着物であの繁昌亭の高座の座布団の上に座ったのである。今後は、「繁昌亭ってどんな寄席小屋ですか?」と尋ねられたら、「ああ、あそこねえ、前にいっぺん出させてもろたことあるけど、なかなか 演りよい、ええ小屋でしたわ」と答えることにしよう。
*打ち上げの場にあったもの。

九月二十二日(土)
*サーモンとクリームソースと蔓紫のパスタ、ピーマンと茄子と塩豚の炒め物、スイートポテト。

九月二十三日(日)
雀三郎十八番の五日目に行く。

桂雀五郎 手水まわし
桂雀三郎 八五郎坊主
桂雀々  がまの油
桂雀三郎 植木屋娘

桂雀三郎 仔猫

 落語の感想はもうええか。いち落語ファンは今日も幸せでした。めでたしめでたし。
 それにしても、打ち上げで、枝雀一門の二人が飲みながら落語や落語会のことをほんまに楽しそうに喋っていたり、雀三郎一門の三人が固まって喋っていたりするところを見ると、一門というのはええなあ、とつくづく思う。小説にはそんなもんはないからなあ。昔は、漱石一門とかあったらしいけど。
 雀々さんが、「ほんまに落語が好きな人なんですわ。仕事やと思てない。そら私も好きなほうですけど、なんぼなんでも十八も続けて毎日やるてな、そんなキチガイみたいなことは」とマクラで言っていたが、まあその通りなのだろうなあ。

九月二十四日(火)
 雀三郎十八番の六日目。

桂雀喜  軽業
桂雀三郎 二番煎じ
桂千朝  京の茶漬
桂雀三郎 けんげしゃ茶屋

桂雀三郎 わいの悲劇(小佐田定雄・作)

 というわけで、最終日。それにしても、十八番の最後のネタに「わいの悲劇」を持ってきますか。
 「わいの悲劇」というのは、相当アホらしい噺なのだが、そのアホらしさ以上に難易度の高いネタである。能と歌舞伎と浪花節と宝塚歌劇の発声と口調ができなければならない。父が能、母が歌舞伎、姉が宝塚、主人公がべたべたの大阪弁、そんな家族と、そこにやってきたアメリカ娘の話で、もちろんちょっといい話になったり、泣ける話になったりなどしない。そんな気配は欠片もない。最初から最後まで、ひたすらただのアホである。
 このアホをやるために注ぎ込まれる落語家の技術と力量のものすごさには恐れ入るしかないし、落語家の能力をそこまで引き出してしまうネタもすごい。
 「アルカリ寄席」と「小佐田定雄」というのは、新作落語を作る人間にとっては、とんでもなくでかい壁であることを再認識する。
 ほんま、こんなもん見せられたら、ちょっとへこむわ。まあそれも含めてすごく幸せなことである。
 来年もまたネタを変えて十八番をやって、それで三回目、18×3で、ネタ数は五十四。再来年は還暦なので、それに六つ加えて、六十のネタを一日二席ずつ、ひと月通して演る予定らしい。キチガイというより、バケモンやな。
*打ち上げの会場にあったもの。

九月二十五日(火)
 二階の物干しから見る月が、すごく明るかった。さすがは中秋の名月である。
*角煮、煮卵、ちぎり蒟蒻、白米、かぼちゃと林檎のサラダ、味噌汁。

九月二十六日(水)
 夕方、一時間ほど走る。夕陽が丘で夕焼けを見てから、坂を下って帰っていたら、正面にでかい月が出てきた。
 地平線近くの月はなぜ大きいのか、にはいろいろ説明もあって、まあいちおう納得はできるのだが、それにしてもちょっと信じられないくらいでかかったなあ。
*黒豆ご飯、空芯菜とピーマンと塩豚の炒め物、茄子のマリネ、水菜とトマトと万願寺とおくらのサラダ、味噌汁。

九月二十七日(木)
*角煮、葱と蓮根とじゃがいもの煮物、玄米、茄子のマリネ、水菜と万願寺とおくらのサラダ、味噌汁、スイートポテト。

九月二十八日(金)
*牛蒡ご飯、葱と蓮根とじゃがいもの煮物、水菜とトマトと万願寺とおくらのサラダ、蜆の味噌汁、茄子のマリネ、豆もやしのナムル、鯵の塩焼き。

九月二十九日(土)
『ハナシをノベル!!』第9回。
 はやくも第九回である。しかも十一月にCD付きの単行本が講談社から出ることになった。めでたい。そこには私の「寄席の怪談」が収録されております。
 というわけで、今回、月亭八天さんの演じるのは次の二席。

「みんなの会社」北野勇作・作
「わあわあ言うております」田中哲弥・作

 この二席の間に田中啓文司会のトークがはさまるというのもいつも通り。
 「みんなの会社」は、前半で八天さんが演りながらちょっと混乱して、ところどころ台詞や段取りをとばしたりして、観ていてかなりはらはらさせられたのだが、それほど乱れることもなく、つまりお客さんがそういう手違いに気づくことなく最後まで持っていけた。実際、かなりややこしい噺で、なにしろ登場人物が、男5人に女2人、同じ部屋で会話をする。
 どこまで混乱せずにそういうのがやれるかどうかを試してみたかったというのもあったのだが、けっこう混乱せずにいけたと思う。この分なら、まだ増やしてもいけるかな。初演としては上出来。

「わあわあ言うております」は、ようするにメタ趣向の噺で、「わあわあ言うております」という台詞さえ言えば、どんなシーンでもそこで終わりになるという落語の性質を使って、落語の登場人物が過去をやり直そうとして、失敗して、またやり直そうとして、また失敗して、という言わばアニメ版「時をかける少女」の落語版。こういうメタ趣向というのは、アイデアはおもしろいのだがあまり笑えない、とか、活字で読むぶんにはいいのだが実際に演じるとおもしろくない、ということが多いのだが、これはきっちり笑えて、お囃子さんとの掛け合いになるあたりなど客席は爆笑になっていて、ちょっとくやしかった。

 終演後、打ち上げで行った店で、女店員に「瓶ビールは何本にしましょう?」と尋ねられたので、「じゃ、六本」と答えると、「わかりました、十二本ですね」「いや、違う違う六本」「ああ、わかりました、十二本ですね」「いや、違うって、ひとつのテーブルに二本ずつや」「あ、二本ずつ、ですか。では、ビールは十二本ですね」「違う、六本やがな」というような凄まじいやりとりがあったあと、「これで十二本きたらちょっとおもろいなあ」と笑っていたら、ほんとうに十二本きて、その他にも、焼酎のかわりにお湯が来て、「すんません、これ、焼酎と違ごおてお湯ですわ」と言うと「あっ、薄かったですか」「違うねん、お湯や で、これ」「ああ、じゃ、もっと濃いほうがいいですか」「いや、そういうことと違ごおて‥‥まあええわ。うん、濃いほうがええ」とか、あのとき、あの店員にはいったい何が見えていたのだろうか、と締めくくれば、そのまま新耳袋に収録できそうな状態でおもしろかった。
*ビール十二本とか、いろいろ。

九月三十日(日)
*野菜入りお粥、塩豚と茄子とピーマンと玉葱と蓮根と炒め物、蓮根の甘酢漬け、蜆の味噌汁。


無断転載禁止 (c) Yusaku Kitano/Hiroko Morikawa(イラスト)
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