ショートショート劇場

カエル通信システム北野勇作 
   カエル通信システムとは、二十一世紀に向け開発された次世代型情報伝達ネットワークであります。残念ながら一般にはまだそれほど知られていませんが、「地球に優しい」という観点からすればこれ以上望めないほどクリーンなシステムと言えるでしょう。
 原理はいたって単純。古来より、雨が降り出す前にカエルが鳴くという現象は広く知られており、そしてそれを説明するためのさまざまな仮説が立てられてきました。
 例えば、カエルは空気中の湿度の増加を皮膚で感じ取っているのだという説、あるいはカエルは未来予知ができるのではという説、はたまた、カエルには雨を呼ぶ超能力があるのではいう説等々、まさに百家争鳴。
 が、残念ながらどれも決定的なものとは言えませんでした。
 しかしついに、我々は独自の研究により、ついにそのメカニズムの解明に成功したのであります。しかして、その真相とは。
 なんとカエルたちは独自の情報伝達網を有していたのです。では、わかりやすく説明しましょう。
 まず、ある地点で雨が降りはじめる。その地点にいたカエルが雨に反応して鳴きます。その声を聞いて別のカエルが鳴く。さらにその声を聞いたカエルが鳴き、さらにその声を――という具合にカエルの鳴き声は波の様に伝播されてゆく。このカエルの鳴き声の波が、天気が変化していく速度――いわゆる雨足――よりも早く伝わっていたわけです。
 さて、特にシステム化されていないノーマルなカエルの間でさえ、これだけの情報伝達が容易に行われているのですから、ここに最新バイオテクノロジーを導入し、カエルを生体情報デバイスとして機能するように改造すれば、この鳴き声の波に大量の情報を乗せることが可能になることは自明の理でありましょう。
 当社の技術研究班は、ついにその方法を確立しました。すなわち、コンピュータとカエルの脳を直結することによって、いかなるデジタル信号をもカエルの声へと変換するという画期的なシステムであります。
 使い方は簡単。伝達したい情報を専用のフロッピーに入れると、これをコンピュータが読み取って、接続してあるカエルへと伝達します。カエルはそれを鳴き声に翻訳し、そしてその鳴き声を聴いた別のカエルが同じ声で鳴き、さらにそれを聴いた別のカエルが――あとは同じです。
 只今お申込みいただきますと梅雨特別サービス期間中ですので、もれなくカエル通信システム専用フロッピー――ケロッピー、あるいはフロッギーと呼ばれております――が十枚ついてきます。
 というような説明を昨日、カエルによく似た顔のセールスマンから聞いたのだ。明日またお返事をうかがいに参ります、そう言って彼は帰っていった。
 で、ぼくは今も迷っている。情報などもうこれ以上いらない。それは確かなのだが。  それでも、カエルたちによって送られてくる情報というのをいちど受け取ってみたいような気もするのだ。

(了)
無断転載禁止 (c) Yusaku Kitano/Hiroko Morikawa(イラスト)
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