'97ベトナムの旅

その3『COOP、氷菓子、露地発見』

 夜の八時過ぎ、飯を食うためにホテルを出る。
 ファン・グー・ラオ通りを中心街とは逆の方向にぶらぶら。
 10分も歩かないうちに、屋台がたくさん並んでいるところを発見。ガイドブックの地図で位置を確認すると、どうやらここも市場らしい。明日の朝また覗きに来ることにして、とりあえず屋台へ。ここでも様々な麺が並んでいる。いちばんラーメンに近いと思われる黄色い縮れた麺を指差すとさっそく茹でてくれる。
 並んだ屋台の正面はちょっとした広場になっていて、そこにテーブルと椅子がいくつも並べられている。各テーブルの上には必ずあの刻みトウガラシの入った広口瓶が置かれていた。
 椅子に座っていると持ってきてくれる。これは、ほとんど醤油ラーメンである。スープは透きとおっていてあっさりした味。麺は固めでうまい。どうやら、うどんみたいなのがフォー、そしてこのラーメンみたいなのはミー、というらしい。
 交差点なのでここも交通量が多い。向かいに映画館がある。カンフー・アクションっぽいポスター。ヒロインが銃を持った男をキックしている絵。そういえばこのポスター、街のあちこちで見かけた。
 すぐ近くに、地元の若者に人気のあるチェーの店があるらしいので行ってみることに。チェーというのがどういうものかよくわからないが、ようするにそこは甘味処であるらしい。満員である。入口からはみ出たあたりに、小さなプラスチックの椅子を置いてくれた。例によってわからないままうなずいていると出てきた。これがチェーというものらしい。そうしている間にもバイクで次々と客がやってくる。テイクアウトもあるらしい。ビニール袋に入れてバイクで提げて帰る。
 なんというか、グラスに入ったカキ氷みたいなものである。ミルク金時をもうちょっと融かした、というか、おしるこにカキ氷を混ぜてそこにモチやら寒天を入れたというか。もっともベースはココナツミルクのようだが。
 たっぷり入って1500ドン。こりゃ人気があるのもわかる。男ばっかりバイクで乗りつけて食っている集団もあり。
 日本でも売り出したら流行るんちゃうかなあ、などと言いつつ店を出ると、すぐ前の道路沿いにネオンを輝かせているのがなんと、お馴染みのCΟΟPである。
 入口でロッカーに荷物をあずけて入店する方式になっている。とりあえず入ろう入ろう、と人波をかきわけていく。
 それにしても、これまたすごい人である。なぜこれほどまでにコープに人が。テトのための買い物か。改札みたいなゲートを通って売場へ。
 おお、ここの商品には値札が付いているではないか。これは助かる。大体の相場を確認することができるのだ。
  ふむふむ、果物はけっこうするなあ。葡萄は高い。お菓子類はどれも高い。輸入品も。なにしろ、日本と同じくらいしたりする。板チョコ一枚15000ドン。チェーの十倍である。野菜に果物、文房具、服、食器、そのあたりの値段をざっと見てまわる。

「やっぱり果物とかは市場で買う方が得みたいやなあ」
「そらそうやで」
などと近所のオバちゃんのような会話を交わしつつ。




1997年2月6日(木)

  ちゃんと朝起きて(あたりまえか)、ファン・グー・ラオ通りのはずれにある市場へ。ボロボロのビーチパラソルがたくさん広げられ、その下に様々なものがひろげられている市場のなかをうろうろと歩き回った。威勢のいいオバちゃんが、ナマズやら生きたアヒルやらを指し、たぶん、買っていけうまいぞお、とかなんとかしきりにすすめているのだが、どっから見ても旅行者である我々がアヒルを買うわけがないだろうがオバちゃんよ。つぶやきつつあたりをひとまわり。
  市場の奥にも屋台がいくつかある。この辺の感じは日本の市場にかなり似ている。ここでバインセオとフォーらしきものを食う。店の女の子が珍しがっていろいろと世話をやいてくれる。
チェーの店へ行ってみるが閉っている。昨日は暗くてわからなかったのだが道路の左右には巨大な木が植えられている。どれも五、六階建てのビルくらいの高さの木なのだ。まっすぐな道路の両側にずらりと並んでいるのは壮観。
  道路沿いにあるカフェに入る。入る、といっても前にも書いたとおりドアとか仕切りはないから、道に置いてあるテーブルに座るのである。ここは市場からもホテル街からもすこし離れているせいか、落ち着いた感じ。
カフェ・スーアを飲みながらぼんやり。
風通しがよく、気持ちがいい。
しばし休んでから料金を払いに奥へ声をかけると、いきなりこんな言葉が返ってくる。「ろくせんどんです」
ん? 一瞬それが日本語であることがわからない。片言ではなく、まったく不自然さのない日本語だったからだ。
エンジニアだという。日本人といっしょに仕事をしている。それにしても綺麗な日本語である。
「テトのときは、店は休みになるんですか?」
「テトの間、店は閉っていますよ」
「屋台とかは、どうなんでしょうか?」
「屋台は大丈夫」
あ、それなら問題ないな。森川と顔を見あわせる。
というわけで、もう明日はテトなのである。つまり今日は大晦日。
夜にそなえてホテルで休もうと、ファン・グー・ラオの裏の通りを歩いていた。
建物と建物の間に露地への入口らしきものが見える。方向からいって、ホテルの近くに抜けられそうな気がする。市場やら露地にはめっぽう弱い森川弘子が、早くも入って行きたそうにしている。そしてよくよく見ると、そんな露地への入口がいたるところにあるのだ。
とりあえず、入ってしまう。ぐねぐねした細い露地。少し幅の広いところにはフォーやプリンを売る屋台が出ていたりする。左右の家々では、テトの飾り付けや大掃除が行われている。おフダみたいな紙を玄関前で燃やしている家もある。線香の匂い。金ピカのおフダを貼られ供えられている西瓜。ぺかぺかと点滅するクリスマスツリーのような電飾。ありがたいんだかなんだかよくわからない。
露地からは隣の露地へと抜けられるさらに細い通路がたくさんある。ぐねぐねと曲ったり枝別れしたりしながら繋がっているようだ。
家の前に縁台みたいなのが置かれていて、そこに近所の人たちが集まっていたりする。大人と子供がいっしょになって金をかけてトランプをしていたり、チェッカーみたいな将棋みたいなボードゲームに人垣が出来ていたり。駄菓子屋みたいな店もある。歩いているだけで飽きることがない。
ホテルのすぐ裏にこんなおもしろい場所があったのだ。
というわけで、一句。

安宿の裏の迷路や西瓜売り

 部屋に戻り、さっき歩いていたあたりを見下ろしてみた。ごちゃごちゃとひしめきあうトタン屋根とコンクリートに隠されて、露地があることすらわからない。屋根と屋根の間に作られた小さな物干し台にもお供えが置かれ、線香が立てられている。
 夕方から中華街のチョロンに出かけてみることに決め、さっそく昼寝。


(つづく)

無断転載禁止 (c) Yusaku Kitano/Hiroko Morikawa(イラスト)
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